東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5892号 判決
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【判旨】
一被告が昭和四八年八月二四日、訴外中原との間で、その所有する本件(一)の建物につき、売買の予約をなし、これに基づき、訴外中原のため、本件(一)の建物についてのみ、本件仮登記がなされた事実は、当事者間に争いがない。
二<証拠>によると次の事実を認めることができる。
(1) 訴外中原は、昭和四八年七月ころ、魚屋や不動産業を営んでいたが、電気工事の請負業をしていた原告から金を借り、一時は、その総額が金一〇〇〇万円を越したこともあり、(昭和四八年末ごろまでは、金七六〇万円位であつた)その返済のため、原告と度々会つて話合いをしていた。そして、右金員の返済方法としては、訴外中原が被告に貸してある金員の返済によつて行われることとの合意が出来ていた。
(2) 訴外中原は、当時一緒に仕事をしていた訴外佐久間秀男(以下「訴外佐久間」という)と同人の甥である訴外小林達司(以下「訴外小林」という)から鉄骨屋と土建業を営む被告を紹介され、そのころ、被告は、本件各建物を含む四棟のプレハブ住宅兼工場を所有していた(ただし、建物が建つていた土地の地主は訴外木島正次郎であつた。)が、そのプレハブの建物の建築工事代金は、未だ完済に至らず、右プレハブを建築した訴外塚元工務店に対して、金一五〇万円以上の未済工事代金債務を有しており、その他資金繰りに苦しんでいた。そこで、訴外中原らは、右工事代金を被告に代つて肩代りして支払い、更に被告に金を貸して援助することとし、銀行を通して金を融通したり、また現金で融資をしたりして、昭和四八年六月ごろには、被告に対して、訴外中原は、金九四万円、同人の共同事業者である訴外小林は、金七〇万円位の金を貸し被告からは、その返済のため手形もしくは小切手等を受けとつていたが、いずれもそれらの手形等は不渡りとなつてしまい、そのうち被告の事業は昭和四八年八月二五日には倒産してしまつた。
(3) 訴外中原は昭和四八年八月ごろ、何回となく訴外小林らと被告を訪ね資金の返済を迫つたが、話がつかず、結局被告所有のプレハブ住宅を返済のための担保とすることとし、当時被告が所有していた本件各建物を含めた四棟の建物に仮登記を付けることとし(本件(一)の建物についてだけは、被告はその事実を認めている)被告の事務所で被告本人から、本件各建物に関する委任状、被告の印鑑証明書等の必要書類を受け取り、本件各建物について、売買予約をなし、それに基づき訴外中原は、昭和四八年八月二五日「司法書士に依頼して、本件各建物につき、昭和四八年八月二四日売買を原因とする所有権移転請求権仮登記の手続を了した。この事実は訴外中原が被告から必要書類を受けとつたこともあり被告も当然了解しており、その後訴外中原と被告との間には、本件各建物についての紛争はない。
右認定に反する丙第二号証(被告の別件である当庁昭和五二年(ワ)第二八七三号事件中の本人尋問調書)中の記載は、当時の被告の経済状態、本件建物についての登記の状況等を考え、丙第三号証(訴外中原の前記事件の証人調書)の記載と比較検討すると、にわかにこれを信用することはできない。
三<証拠>によると、次の事実を認めることができる。すなわち、
原告は、訴外中原と昭和四八年七月ごろから、同人の手形の割引をしたり、金を貸したりする関係で知り合い、同年八月には金三〇〇万円を利息は月八分で、一か月分の天引きをして貸付け、その他にも次々と金員を貸付けその総額は、金二〇〇〇万円にもなつたこともあつた。そして、右貸付金の返済として、訴外中原からは同人が経営する会社である訴外会社振出の約束手形等を受けとつていたが、当初受けとつた額面金三〇〇万円の手形が落ちただけで、あとは全部不渡りとなつていた。そのような事情の中で、訴外中原は、同人が代表者をしている訴外会社が、原告に対して負担する本件手形金債務について、訴外会社のため保証をしていたところ、昭和四八年九月に訴外中原が、被告に対する債権の担保として、本件各建物の権利を持つているとの話が出て、そこで、そのころ、原告は、新宿区にある喫茶店「滝沢」で、被告に会い(訴外中原が同席するとだまされると思い同人は呼ばなかつた)本件各建物の所有権を被告が訴外中原に移転したことを確かめたうえで、昭和四八年九月七日、原告は、訴外中原との間で、本件手形金債務が、各満期日に支払われないときは、本件各建物をその弁済に代えて本件売買予約上の権利を訴外中原から原告に譲渡する旨の停止条件付代物弁済契約を締結し、訴外中原が、必要書類をとり揃えたうえ、司法書士に依頼して、本件仮登記につき、東京法務局田無出張所昭和四八年九月七日受付の所有権移転請求権移転の附記登記である本件附記登記(甲区欄順位第二番付記)の手続を了した。
しかし、その後、本件手形金債務は、いずれも各満期日に支払われなかつた。
以上の事実を認めることができる。右認定に反し、被告本人尋問の結果中には、被告が訴外中原に所有権を移転したのは、本件(一)の建物だけであり、本件(二)の建物は所有権を移転していない趣旨の供述があるが、前示認定事実と前掲丙第三号証中の訴外中原の供述記載および原告本人尋問の結果に照らして検討すると、右供述は、にわかに信用することはできない。
右に認定の事実によると、原告は、本件各建物につき、被告から訴外中原を通じて、確定的に、本件売買予約上の権利を取得したことを認めることができ、更に原告が被告に対して、昭和五一年九月七日、本件売買予約を完結する旨の意思表示をなした事実は被告の認めるところであるから、そうすると、本件(二)の建物は、本件(一)の建物と同様に被告から訴外中原に、そして、訴外中原から原告にその所有権を移転したものと認めることができる。そうだとすると、本件(一)(二)の建物は、いずれの原告の所有であるということができる。
四そこで、次に職権によつて按ずるに<証拠>によれば、原告の本訴請求の請求の趣旨は、本件(一)(二)の建物につき、所有権の確認を求める部分を除き、その他は、原告が昭和五二年三月三一日に被告(被告の外に訴外木島正次郎も被告となつている)に対して提起した東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第二八七三号建物所有権移転登記等請求事件(別紙判決書)と同一の請求の原因事実に基づくものであり、同事件と訴訟物を同一にするものであるところ、同事件については、既に原告の請求を棄却する旨の判決(昭和五三年一二月二〇日言渡)が昭和五四年一月八日の経過により確定していることが認められる。そうすると、原告の本訴請求の所有権の移転の本登記手続を求める請求は、前訴判決の既判力に抵触するといわなければならない。
ところで、既判力とは、ある裁判が形式的に確定すると、その内容である一定の標準時における権利または法律関係の存否についての裁判所の判断が、それ以後、その当事者間(一定の第三者に及ぶ場合もある)において同じ事項を判断する基準として強制通用力をもつという効果をいうと解すべきである。
そして、私法上の権利または法律関係は、いつたん確定されても、その後の行為によつて変更を生ずる可能性があるから、既判力の標準時以後に生じた状態に基づいて、既判力をもつて確定した権利または法律関係を争うことができなければならず、従つて、既に確定した権利または法律関係について再訴すること自体が不適法となるわけではなく、ただ、新しい状態が生じていなければ、請求に関する正当な利益を欠くか、または請求が理由がないことになるだけであると解すべきである。
そうすると、原告の本訴請求中、原告が被告に対して、本件各建物につき、仮登記の所有権移転請求権移転の附記登記に基づく所有権移転の本登記手続をすることを求める請求部分は、原告敗訴の前訴判決の既判力に抵触するものであり、原告は既判力の標準時以後に生じた状態に基づく主張をしていないから、前訴判決の判断の援用により、原告の本訴請求は理由がないというべきである。
五そうだとすると、原告が被告に対して、本件各建物の所有権に基づき、その所有権を有することの確認を求める請求は理由があるので、これを認容し、その余の仮登記による本登記手続を求める請求は、理由がないから、これを棄却す<る。>
(小野寺規夫 田中哲郎 山田敏彦)